コーヒーで旅する日本/四国編|静かな海辺の小さな憩いの場。多様なコミュニティが交わる「みんなのコーヒー」の大らかな引力

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、各県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

店内から海辺まで、フラットにつながる空間に身を置くと、吹き渡る風と潮の香り、のどかな風景にしばし時間を忘れてしまう


四国編の第5回は、愛媛県新居浜市の「みんなのコーヒー」。静かな海辺の集落の奥、ぽつりと現れる小さな店の前に広がるのは、穏やかな瀬戸内の海と大小の島々。日常から遠く離れた、のどかな店を訪れるのは、ライダーやサイクリスト、SUPを楽しむ人々、さらには愛らしい猫たちまでも。「一杯のコーヒーから、知らない人とも会話が生まれるのが楽しくて」という店主の伊藤さんが、店を始めるに至ったのは、会社員時代にコーヒーが取り持つつながりに大きな魅力を感じたことがきっかけ。創業以来、多くの人の縁が広がり、いまやこの店は、さまざまなコミュニティが交わる場所に。そんなコーヒーの可能性を信じる伊藤さんの原点でもある、印象的な店名に込められた思いとは。

店主の伊藤さん


Profile|伊藤淳 (いとう・じゅん)
1973年(昭和48年)、愛媛県新居浜市生まれ。企業の事務職として勤務していた頃に、コーヒーが持つ魅力に気付き、抽出の楽しさやコーヒーを通したコミュニケーションの楽しさを見出す。その後、開業を目指して松山の自家焙煎コーヒー店に就職。コーヒーの基本を学び、出産を機に地元に戻って、2009年に「みんなのコーヒー」を立ち上げ豆の販売をスタート。新たに立ち上げた地元のマルシェを通じて多くのファンを得て、2013年に現在地に移転リニューアル。

何気ない一杯に感じた、コーヒーの無限大の可能性

小さな丘を上って、店に入った先にある風景の展開に、思わず目を見張る

凹型を描く四国北部の沿岸、ちょうどそのへこみの真ん中にある、新居浜市の東の端。海沿いに並ぶ大小の工場や倉庫が尽きて、小さな集落の奥に分け入ると、花畑に囲まれてポツリと立つ「みんなのコーヒー」の店構えが現れる。ゆるやかな坂のアプローチから入口に近づくと、ほのかに鼻をかすめる潮の香。果たして扉を開くと、大きく開いた窓の向こうには、どこまでも広がるまぶしい空と海の青。そのまま歩み出ると、岸壁越しにむっくりと浮かぶ大島の姿。瀬戸内の穏やかな風景を前に、気持ちも溶けていく。一見、ひなびた海辺の店に、これほど劇的な展開があろうとは、よもや思うまじ。「目の前の大島をお客さんに見てほしくて、店を立てるときに地面の嵩上げから始めたんです」という店主の伊藤さん。店のフロアは海辺までフラットに続いていて、朝からSUPを楽しんだ人たちが立ち寄り、さながら海の家のような開放感がなんとも心地よい。

入口から裏手の海辺までフラットにつながる店内は、天井が高く清々しい雰囲気


朗らかな笑顔と軽快なおしゃべりで、和気あいあいの空気を生み出す伊藤さん。実は以前は事務職のOLとして企業で勤務していたが、「もっと人と接する仕事をしたい」と思っていたところに、きっかけをくれたのが一杯のコーヒーだった。「会社に入った頃は、慣れない仕事でいっぱいいっぱいになっていました。そんなとき、ちょうど大阪での研修があって、帰りに立ち寄ったドトールコーヒーに思わぬ転機がありました。当時は地元にまだなかったので、せっかく来たからと入ってみよう、くらいの気持ちでしたが、そこでコーヒーを飲んでいたら不思議なくらい気分が落ち着いて。ここまで気持ちを変えてくれて、助けられた飲み物はないなと感じたんです」と振り返る。

 
新居浜勤務となって以降も、わざわざドトールから豆を取り寄せ、会社で同僚に淹れていたという伊藤さん。やがて社内にその味は定着し、ついには“新居浜支社に行くとおいしいコーヒーが飲める”と、他部署の同僚にまで広がっていったそう。何より、「自分でもだんだんドリップするのも楽しくなって、コーヒーを通じていろんな人と会話が生まれるのも楽しくなって、コーヒーに無限大の可能性を感じました」と、誰あろう伊藤さんが、すっかりコーヒーの虜になっていた。

豆の販売カウンターには、精製方法の異なる豆のサンプルが


やがて「コーヒーに関わる仕事がしたい」との思いは膨らみ、やるならば自分がしたい店を作ろうと、松山の自家焙煎コーヒー店に就職。新規支店の立ち上げにも関わり、コーヒーの知識や技術、経営ノウハウまで、さまざまなイロハを学んだ。とはいえ、店に勤めるのでは定年という限界があり、生涯続けるには豆の焙煎からやらねばと気持ちを固めていった。数年後、出産を機に地元の新居浜に戻り、しばらくは育児と仕事をこなす日々の中で、「当時は自宅を改装したショップが流行っていて、カフェは無理でも豆の販売ならできるかもと思って」と、店の立ち上げの可能性を見出した。

「気候のいい時季は、外の席に行くお客さんがほとんどですね」と伊藤さん


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